2012年2月29日水曜日

社長も現場の仕事をする②

また違った事例です。


ある製薬会社が新分野への進出を図った。それまでの製品ラインではあまりに手薄と判断したためだった。

候補は幾つかあった。いずれの分野でもリーダーシップを握るには新製品の開発が必要だった。そこで3つの分野を選び、それぞれにプロジェクト・チームを編成した。

そのそれぞれにトップマネジメントの人間を一人ずつ参加させた。‥

‥それら3つの新薬開発プロジェクトはあまりに重要であって、必要な決定を必要なときに行うには、最初の段階からトップマネジメントの人間がプロジェクト・チームに参画していることが必要だった。

    『マネジメント』より


ただし、こうした事例が拡大解釈されると大きな失敗になるともドラッカーは指摘しています。

もしもその仕事が誰かができるようなものであるならばトップはタッチしてはいけないということなのです。



(浅沼 宏和)

2012年2月28日火曜日

社長も現場の仕事をする①

ドラッカーはトップマネジメントも現業の活動を行うべきと考えていました。

あるフランスの中堅消費財メーカーがヨーロッパで成功した。勝因は社長が広告を担当していたことにあった。しかも広告の制作までも行なっていた。

この社長はディーラー関係も自ら担当していた。‥

「われわれの事業は消費財販売だ。したがって業績はディーラー次第だ。どれだけディーラーを知り、どれだけディーラーに知られるかが勝負だ。‥」

この社長は、若い頃はエンジニアリングを専門にしていたにもかかわらず、今日では製造には一切関わりを持とうとしていない。

    『マネジメント』より


このエピソードにはいろいろな側面が含まれています。

トップのやるべき仕事とは何か、それまでとのキャリアとの関係をどう考えるか、など示唆に富んでいると思います。



(浅沼 宏和)

2012年2月27日月曜日

仕事が動くか人が動くか

仕事は常に何らかの形において組織化される。

職能別組織とチーム型組織のいずれかの設計原理に基づいて組織される。

職能別組織とチーム型組織の双方を必要とすることも多い。

    『マネジメント』より


ドラッカーの組織論はこの二つのバリエーションとして組織を捉えているのです。

この二つは対極にある組織なので、調和させることは出来ず、せいぜいバランスを上手く取ることを行い続けることしかできないのです


職能別の場合には仕事の段階やスキルの間を仕事が動いていきます。人は動かないのです。

ところがチーム型の場合、仕事が固定されます。

各種のスキルとツールを持つ者が、ひとつのチームとしてビルの設計や研究開発などの仕事を遂行するとされるのです。


(浅沼 宏和)

2012年2月25日土曜日

閑話休題-マネジメント手法としての5S

来月の『工場管理』に当社の5Sの取り組みについての記事がのります。

数年前から提唱している「2S直角平行」のコンセプトについての解説をしたのですが、最後のまとめでマネジメントと5Sについてまとめてみました。

最初の原稿の分量が足りなかったので急遽付け足したものなのですが、まとめてみると改めて5Sは重要であると思いました。



5、マネジメント手法としての5S

 当社ではマネジメントを「成果をあげるために行動する方法論」と定義している。成果とは外部に価値を創造することであり、行動するとは意識的に活動していくことである。そして、仕事とは成果に向かうプロセスである。成果へのプロセスからの逸脱を発見することが管理の本質である。

 管理が意味をなすためには基準・原則・プロセス・計画などのようにはっきりとした形を作る必要がある。5Sとは管理が意味をなすような環境の形を作り出すことであるように思われる。整備された環境は例外の発見を容易にする。そこにこそ5S活動の本質があると考えている。

 5S活動は逸脱の発見を視覚的に容易にする手段である。P.F.ドラッカーは「よい工場は退屈である。予想外のことは何も起きない。」と述べているが、それはプロセスがきっちりと作りこまれ、管理レベルが高い水準にあることを意味している。

 こうした点から5Sは企業目的そのものではなく、あくまでも目的実現のための手段というべきものである。しかし日常業務と密接な関係を持ち、管理の実効性を確保するためには不可欠な活動なのである。

ドラッカーはよい管理手法の条件として、①効率性 ②意味性 ③適切性 ④精密性 ⑤適時性 ⑥単純性 ⑦実用性 の7つを上げている。これは要するに最小の手間で最大の成果を目指すという視点であり、5S活動もそのようなものとして捉えるべきである。当社の提唱する「2S直角平行」はこうした視点に合致する取り組みであると考えている。

Sは形骸化しやすい活動である。だからこそ5Sの本質を見据えつつ経営効果に常に目を光らせる姿勢が必要になる。5Sを成果にいたるプロセスからの逸脱を防止する実践的なマネジメント手法として位置づけて今後も積極的に取り組んでいきたい。



(浅沼 宏和)

ゼネラリストのほうがよい

‥有機化学や国際金融取引についての助言活動では、マーケティングや購買の人間ではいかに教師としての資質があろうとも不適である。

しかし、助言活動の多くの分野において、学ぶ意欲があり、顧客のことを考え、貢献する責任を負うゼネラリストのほうが、その分野の専門知識をもたない素人をばかにし、しかも努力をしないスペシャリストよりも優れた仕事をする。

        『マネジメント』より


これは組織内の活動の分類上、助言業務というものについてのドラッカーの記述です。

当社は専門サービス業でもありますから、この助言業務の意味合いについてドラッカーから多くの示唆を得ています。

当社では本業ですが、顧客企業においてはアウトソーシングされた助言業務という位置づけになるわけです。

したがって当社社員はゼネラリストであることを目指さなければなりません。


(浅沼 宏和)

2012年2月24日金曜日

トップマネジメントの仕事

ビジョンを描き、基準を設定し、その基準に照らして仕事ぶりをチェックするという活動はトップマネジメントの仕事である。

‥小企業でさえこの仕事を必要とする。

小企業では、独立した仕事として組織する必要はない。

      『マネジメント』より


私はセミナーで「あなたが昨日上げた成果を説明できますか?」とよく聞きます。

首を傾げる方は経営者により多い傾向が有るようです。

トップの仕事の責任は重いことは言うまでもありません。

しかし、具体的仕事内容が見えにくいのもトップの仕事の特徴です。

トップの仕事を明瞭にすることはトップ自身が行なっていく責務でしょう。

ドラッカーの本にはそのための視点が数多くあります。


(浅沼 宏和)

2012年2月23日木曜日

組織の中核的活動を知るには?

ドラッカーは組織づくりはミッション・ビジョンから始まると考えています。

チャンドラーの有名な命題 『組織は戦略にしたがう』 のままということです。

そして、組織は活動の分析からスタートするといっているのですが、何が中核的な活動であるかを知らなければならないのです。

それが以下の3つの問です。

①組織の目的を達成するには、いかなる分野において卓越性が必要か?

②いかなる分野において成果が上がらないとき深刻な打撃となるか?いかなる分野に弱みがあるか?

③わが社にとって重要な価値は何か?


こうして見つかる活動を基幹活動と呼びます。

この基幹活動が組織の重みを担うのです。


(浅沼 宏和)

2012年2月22日水曜日

未来についての解答はない

未来に関して解答は存在しない。

    『マネジメント』より


事業上の問題についての解答はつねに判断を伴います。

それは不完全であり、リスクのあるものであるものです。

必要とされる行動が何か、またそのコストはどうかといったことについていくつかの選択肢から選ぶことが出来るだけなのです。

何か正解があるかのような考えをお持ちの方もあるようですが、間違っています。



(浅沼 宏和)

仕事を小さくすると人は麻痺してしまう

小さく設計した仕事は、人と組織を知らぬ間に麻痺させる。

           『マネジメント』より



無意識に仕事を小さくする人は仕事で自己実現しようとする気持ちがあまりない人でしょう。

こうした人は、よくいえば要領が良いのでしょうが、中長期的には生き残るのが難しくなるでしょう。

マネジャーは部下をこのような事態に陥らせないようにする責務があります。



数年で全てを身につけられるほど狭く設計した仕事では、欲求不満に陥る。

結局、さしたる働きもしなくなる。

いわば職にありながら引退も同然となる。

変化、イノベーション、新しい考えに抵抗するようになる。

自らの安全にとって変化が良いことであり得ようもないはずがないからである。

大きな貢献をしていないということを自覚するがゆえに、常に不安を感じている。

                    『マネジメント』より

ということですね。

いわゆる抵抗勢力というものの本質を言い当てているでしょう。

人はチャレンジしなくなると老いると言いますが、仕事を大きくすれば自動的にチャレンジすることになるわけです。



(浅沼宏和)

2012年2月21日火曜日

◆「世界一やさしいマイケル・ポーター『競争戦略』の教科書」の刊行

3月7日に私の次回作が刊行されます。

世界一やさしいマイケル・ポーター「競争戦略」の教科書

浅沼宏和著/ぱる出版、1,575円


第1章 競争戦略とは何か
第2章 「業界」と競争戦略 :5つの競争要因
第3章 3つの基本戦略と業界環境別の競争戦略
第4章 「活動」と競争戦略 :バリューチェーン、活動システム、フィット
第5章 「立地」と競争戦略 :ダイヤモンド理論とクラスター
第6章 「社会」と競争戦略 :共通価値の創造


ポーターは難解なのですが、できるだけシンプルにまとめました。



(浅沼 宏和)

予定通りには行かない

決定後の状況が想定通りに進展することは少ない。

最善の意思決定さえ思わぬ障害にぶつかり、あらゆる種類の想定外の事態に遭遇する。

しかも、最も優れた意思決定さえ、結局は陳腐化する。

したがって、成果からのフィードバックがない限り、期待する成果を手に入れ続けることはできない。

                                  『マネジメント』より


目標や基準が持つ意味はここにあります。

単純なことからスタートすれば良いと思います。


予定通りに行かないことが戦略が不要である理由にされることがよくありますが、アクションプランとしての理解が不足しているように思います。

そしてアクションプランは実行後のフィードバックがあって初めて意味を持つことになります。

フィードバックとは「うまくいかなかった」という事実に直面する作業でもあるわけで、心理的抵抗感があるものだと思います。

そこがハードルになるでしょう。



(浅沼 宏和)

半分の行動はない

半分の行動はない。半分の行動こそ常に誤りである。

                     『マネジメント』より


何事も中途半端はいけません。


(浅沼 宏和)

2012年2月20日月曜日

◆はましん塾にてドラッカーセミナー

はましん経営塾にてドラッカーセミナーの講師を務めて参りました。


http://hmcnews.hamazo.tv/e3474040.html


私ははましん塾のOB会員なのですが、昨年、ドラッカー関連本を出版した関係で依頼を受けたわけです。

普段会う人達の前でお話をするのはなんとなく気恥ずかしさがあります。


(浅沼 宏和)

大きな問題以外は手を付けない

「何もしなければどうなるか」という問に対して、「何とかなる」との答えが出るときには手をつけてはならない。

頭痛の種ではあっても、大きな問題でなければ手をつけてはならない。

                        『マネジメント』より


これはなかなかできないことですね。

ドラッカーはこうもいっています。


ローマ法は、為政者は些事に執着すべからずといった


大抵の問題は何もしなくてもうまくいくわけではないですが、何もしなくても取り返しがつかなくなるわけではないということです。

なかなか難しい価値は何ではありますが。



(浅沼 宏和)

2012年2月19日日曜日

完全な意思決定などない

完全な意思決定などありえない‥

必ずどこかで代償を払わされる。必ず何かは我慢させられる。

両立不能な目標、対立する意見、矛盾する優先順位をバランスさせなければならない。

                                    
                                         『マネジメント』より


意思決定は常に矛盾のバランスを目指すものです。

ですから、不完全なわけです。

「なんとかバランスがとれている」といったところがせいぜいであるわけです。

こうした事情を踏まえずに「完璧な意思決定」を追求するのは時間の無駄です。


(浅沼 宏和)

2012年2月18日土曜日

トップが腐ると組織が腐る

組織が偉大たりうるのはトップが偉大なときだけである。組織が腐るのはトップが腐るからである。
「木は梢から枯れる」との言葉通りである。したがって範とすることのできない者を高い位置につけてはならない。

                          『マネジメント』より


まったくもって御尤もです。

ドラッカー経営ではトップが最大成果を上げる責務を負っています。


(浅沼 宏和)

失敗はトラブルや怠慢とは違う

信用してはならないのは、決して間違いを犯したことのない者、失敗したことのない者である。

そのような者は、無難なこと、安全なこと、つまらないことにしか手を付けない。

‥‥そのようなことでは、組織の意欲を失わせ、士気を損なう。

                          『マネジメント』より


誤解してはならないのは失敗とはチャレンジして成功しなかったという意味です。

やるべき仕事を怠ることや、全力を尽くさなかったことによって発生したアクシデントとは違う意味であるということです。

失敗はチャレンジする者にだけおきることです。


(浅沼宏和)

ドラッカーが評価した日本の難局突破能力

日本の歴史で際立った特徴となっているものが、難局における180度の方向転換の能力である。

   
                              『マネジメント』より


これはドラッカーが日本を評した言葉です。

具体的な事例として次のことをあげています。

・16世紀にキリスト教を世界で最もスムーズに受け入れたくには日本である。

・17世紀に一転してキリスト教を禁止して徹底に成功したばかりか鎖国も成し遂げている。

・19世紀半ばにまた一転して開国とキリスト教の受け入れている。

このように日本はそれまでと正反対の取り組みを成功させる能力が高いといっています。


さて、現在は難局であると思います。

ドラッカーが賞賛した我が国の能力は今回も発揮されるのでしょうか。



(浅沼宏和)

2012年2月14日火曜日

プロ7箇条

ビジネスポスターのパンフレットが来たので中身を見てみるとなかなか良いことが書いてありました。


【プロ7箇条】

1、プロとは仕事に全力を尽くす人である

2、プロとは自分の仕事に誇りを持つ人である

3、プロとは先を読んで仕事をする人である

4、プロとは仕事にムラのない人である

5、プロとは笑顔で気配りができる人である

6、プロとは成果に責任を持つ人である

7、プロとは能力向上のために努力する人である


ごもっともなことです。

この原則にはドラッカーのにおいが濃厚ですね。

明らかにドラッカーの本にそのまま書いてあるのが、1、2、6、7、です。

5は日本式というところでしょうか。



(浅沼宏和)

真摯さ、成果、足りない能力を補う個人のイノベーションがキーワードになっていますね。

2012年2月7日火曜日

TSUTAYAの創業者・増田宗昭氏の強み

現在、TSUTAYAのビジネスモデルについて調べています。

色々な企業事例と同様にここもリーダーのマネジメント能力が傑出しています。

増田宗昭氏は1951年生まれ。

大学卒業後に、アパレルの鈴屋に入社。

二年目で軽井沢ベルコモンズの立ち上げプロジェクトを任され成功しました。

その後、鹿児島ベルコモンズの立ち上げをしますが、こちらは大失敗。採算ベースに乗せるまで現地で指揮を取りました。

この間に、相続した土地を年収の10倍の借金をして賃貸マンションに建て替え、仮に入居者ゼロでも返済が可能なように空き地に立て看板を立てる等して有能な経営者の片りんを見せていました。

32歳の時にお姉さんが喫茶店を開業するので併設して貸しレコード屋をオープン。

大繁盛したため33歳で脱サラし、実業家としてスタート。創業2年目でフランチャイズ事業に着手して後はとんとん拍子でした。

ここで私が注目するのは増田氏が独立するまでに約10年あったこと。その間に次の経験をしているということです。

①大プロジェクトの成功

②大プロジェクトの失敗と後始末

③個人でリスクを取ったビジネスの実行

④小規模での事業

脱サラまでにこの4つを経験していたことが大きな強みであったことは否めません。

私は個人も組織もイノベーションには10年かかると思っているのですが、増田氏の事例もその法則に当てはまるようです。


(浅沼 宏和)

リーダーと信頼

リーダーたる第三の要件は信頼が得られることである。

‥そもそもリーダーに関する唯一の定義は、つき従う者がいるということである。

信頼するということはリーダーを好きになることではない。常に同意できるということでもない。

リーダーの言うことが真意であると確信を持てることである。

それは真摯さという誠に古臭いものに対する確信である。

リーダーが公言する信念とその行動は一致しなければならない。

‥もうひとつ、古くから明らかになっていることとして、リーダーシップは賢さに支えられるものではない。一貫性に支えられるものである。


        『経営者の条件』より


ということです。

つまりカリスマ性がなく、好かれていない有能なリーダーがありうるということです。

リーダーは、リーダーシップを具体的な仕事とみて、責任を強く自覚し、一貫性のある真摯な姿勢をもつ必要があるのです。



(浅沼 宏和)

2012年2月5日日曜日

リーダーシップとは責任

リーダーたることの第二の要件は、リーダーシップを地位や特権ではなく責任とみることである。

‥真のリーダーは、他の誰でもなく、自らが最終責任を負うべきことを知っているがゆえに、部下を恐れない。

ところが似非リーダーは部下を恐れる。

‥優れたリーダーは、強力な部下を求める。部下を激励し、前進させ、誇りとする。

部下の失敗に最終的な責任を持つゆえに部下の成功を脅威とせず、むしろ自らの成功ととらえる。


         『経営者の条件』より


マッカーサーはうぬぼれが強い人であったようです。逆に、リンカーンやトルーマンは劣等感を持っていたとのことです。

このようなタイプの違うリーダーたちに共通していたのは、まわりに有能な部下たちを集めていたことです。

えてしてリーダーは自分より凡庸な部下を集める傾向がありますが、ドラッカーは本当のリーダーはそのようなものではないといっています。


(浅沼 宏和)

2012年2月4日土曜日

効果的なリーダーシップ

効果的なリーダーシップの基礎とは、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に定義し、確立することである。

リーダーとは、目標を定め、優先順位を決め、基準を定め、それを維持する者である。

   
  

              『経営者の条件』より


ここからリーダーシップとは私が個人の仕事論の原則、組織の経営戦略として説明している内容そのものであることがわかります。

リーダーシップとは雰囲気的なものではなく、あくまでも具体的・実際的な仕事なのです。


(浅沼 宏和)

2012年2月3日金曜日

リーダーにカリスマ性はいらない

リーダーシップはカリスマに依存しない。

アイゼンハワー、マーシャル、トルーマンの3人は稀なほど強力なリーダーだった。

だが、いずれも爪の垢ほどもカリスマ性を持っていなかった。 (以下、アデナウアー、リンカーン、チャーチルが列挙される)

大事なことは、彼らが正しかったことだった。

カリスマ性はリーダーを破滅させる。柔軟性を奪い、不滅性を盲信させ、変化不能とする。


      『経営者の条件』より


ドラッカーはリーダーシップとは仕事である”と言っています。

仕事とは成果に向かうプロセスです。


つまりリーダーシップとは成果を明確にして、そこに向かうプロセスを段階に分けて、具体的な課業や役割を定めて、役割を配分し、必要な能力を開発し、全力で取り組むということなのです。


やるべきことが明確であれば人格的な影響力を駆使する必要もないわけで、仕事の成果が不明瞭で、そのプロセスがますます不明確であればどうにもならないということなのです。

中身がなくてカリスマ性があることほど困ることはありません。

ドラッカーはそうした英雄の例として、ヒトラー、アレクサンダー大王、ケネディを上げています。

リーダーシップを仕事とみることで、資質や個性の違いがあっても成果を上げることができるわけです。


(浅沼 宏和)

閑話休題-執筆のリズム

昨年から今年にかけて執筆の量が数倍に増えました。

特に単著を立て続けに刊行したことで、作家さんの苦労が多少感じられるようになりました。

私の場合、本の執筆は次のような感じになるようです。


ステップ1
出版が決まり、企画書の内容に沿って各種の書籍・資料を大量に読み込む。このインプットは知的好奇心が満たされ、大変な割には楽しくやれる仕事です。


ステップ2
締め切りが気になるようになり文章を書きだす。これが本当に大変で、「こんなような話でまとめたい」を具体的な文章にするのが大変です。
理想と実際の文章のギャップに悩まされ、ちょっとつまづくと挫折して本をまた読み込むという行きつ戻りつが続きます。


ステップ3
締め切りが迫ってくるとハイテンションになります。およそこの時期が10日~2週間ぐらい続きます。
精神が高揚してきてかけそうな気がどんどん湧いてくるのですが、あとちょっとのところで言葉が出てきません。
そこでジョギングに出かけたり入浴したりして気分を変えて少しずつ文章を絞り出すということを繰り返します。
睡眠も極端に少なくなり体力的にもかなり消耗します。このステップを1か月続けることは不可能です。


ステップ4
なんとか締め切りに合わせて文章が出来上がります。私は納期までにできる限り内容を高めるという方式なので、納期遅れがあったとしても数日から1週間といったところです。
提出した直後は極度の解放感で景色が明るく見えます。


ステップ5
ハイテンションの状態から通常の状態に戻ると、精神的な落ち込みが来ます。
「もっとうまく書けたはずなのに」という思いが次々と起きてきて自己嫌悪になります。
またハイテンションの状態で思いついた文章については、おおよその内容は思い出せるのですが、具体的な記述はどんどん忘れていきます。
数日すると何を書いたのか自分でもわからない状態になります。


ステップ6
ゲラがあがってくると少し自信を取り戻します。なにせレイアウトがきれいになりますので文書もよく見えてきます。
ゲラチェックをするのですが、自分の文章なのに「へえ~」「そうなのか!」「なるほど!」と独り言をいったりします。
不思議な話ですが自分が書いた文章ではなく他人の文章を読んで添削している感じになります。


ステップ7
本が完成します。きれいな装丁を見ると気分が晴れやかになります。しかし、読んでくれた人がどんな反応をするのかが気になるようになります。
本屋さんで自分の本を手に取っている人を見かけると買ってくれるかどうか気になってずっと観察してしまいます。


まあ、こんな感じです。




(浅沼 宏和)

◆マイケル・ポーター入門書を刊行します

史上最強の経営戦略家として名高いハーバード大教授のマイケル・ポーターの入門書を刊行します。

マイケル・ポーター
出版社は、去年に「世界一やさしいドラッカーの教科書」を刊行したぱる出版です。


http://pal-pub.jp/new.php


ドラッカー本の企画を進めていくさなかで、次はポーターでという話になり、前回の本から9か月後に「世界一やさしい~」の第二弾を出すことができることになりました。


マイケル・ポーターは1980年代にスーパースターになった人で、当時のほとんどのコンサルティング会社はポーターの理論をツールに使っていたほどです。

有名な5つの競争要因
その後、「ポーター理論は静態的で、現実の変化に対応していない」といった批判などを受けて、大ブームといった状況は収まりました。


しかし、今、日本でひそかにマイケル・ポーターの再評価が進んでいるのです。

一番のきっかけとなったのは、ワタミフードサービスの渡邊美樹氏がNHKの番組で自身の「座右の書」として紹介したことです。

ワタミの渡邊美樹氏
その影響で、専門書の中でもとりわけ高価なポーターの本が売れるといった事態が起きたのです。

星野リゾートの星野よしはる社長もポーターを愛読しているようですね。

おかげで私も大人物の理論をまとめる機会を得ることができました。

マイケル・ポーターはとても分析的でロジカルな体系を提示している人ですので、なるべく元の思想をそのまま伝えるように苦心しました。


あの壮大な理論体系を192ページのビジネス書に押し込むことはとても難しく、削り場所を選ぶのに四苦八苦しました。


「この一冊を読めばポーター理論の基本的な部分がすべてわかる」ことを目標としています。

その通りになるといいのですが。



(浅沼 宏和)

2012年2月1日水曜日

社長の仕事は知識労働の典型

私はセミナーで「昨日あげた成果を説明できますか」という質問をしています。

深々とうなずく人よりも首をかしげる人のほうが多いようです。

聴講者の多くは経営者ないし後継者の方です。したがって現業の仕事ではない場合が多いのですが、かえって現場の人のほうが簡単に説明できるでしょう。

「昨日は朝から工場で働いていました。時間当たり200個の部品を作り、不良はありませんでした。」

実に明瞭です。

現代のような知識社会ではこのような明瞭さが失われているわけで、知識労働の最たるものが経営者の仕事です。

最大成果をあげるべく行動しなければならないはずですが、意外とするべきことが明瞭ではなく、日々発生する事態に対処している時間が長くなるようです。


知識労働者においては時間の活用と浪費の違いこそ成果と業績に直接かかわる重大な問題である。

        (『プロフェッショナルの条件』より)

私はセミナー向けのネタ作りに成功企業の経営分析をよくしますが、うまくいっている企業は経営者のマネジメント力がきわめて高いことがわかります。

会社の強みとして最も必要なのは経営者の能力であると思います。


(浅沼 宏和)

◆韓国版-「世界一やさしいドラッカーの教科書」刊行

今年の4月に世界一やさしいドラッカーの教科書の韓国語版が発売されます。

現在、アジアでは急激な経済成長を受けてビジネス書のニーズが高まっているようです。

それに対応するだけの執筆者の数が足りないため、中国や韓国では日本のビジネス書を翻訳して刊行する流れがあるようです。

日本の書き手にとって、韓国語版、中国語版はステップアップのために欠かせない関門であるそうで、そうした機会をいただいたことはありがたく思います。


(浅沼 宏和)